あけましておめでとうございます。
今年もどうぞ宜しくお願いいたします。
年末年始は訳あって、しみじみと「金型」に思いをはせていました(知財のことではない)。
でも、「金型」といえば、知財の観点でも、製造受託した中小企業が大企業にいじめられる事例が多いですね。去年2024年12月、知財経営支援ネットワークに中小企業庁が参画し、知財の下請けいじめ問題にネットワークで取り組むというニュースがあったばかりでした。
なので、今回は「金型」の問題と知財について考えてみたいと思います。
受託企業の金型問題
金型製造の現場では、NC工作機械や, CAD,CAM, CAE等といったソフト等が普及していても、例えば、最終製品データからは導き出せない金型として成り立つ形状の考案、加工のしやすさ・精度を考慮した効率的な手順等、まだまだ社内ノウハウで付加価値を上げられる領域が残されています。
こういったノウハウが詰まった金型製造に関連して、以下の公的機関が、基準、ガイドライン、報告書等を発表し、大企業との取引において生じる下記のような問題事例を挙げています。
●公正取引委員会
「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年, 改正平成28年・令和4年・令和6年)
>7 不当な経済上の利益の提供要請> 7-4 設計図等の無償譲渡要請
「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(優越ガイドライン)」(平成22年, 改正平成29年)p.14
「製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書」 (令和元年)
●中小企業庁
「知的財産取引の適正化について」(令和3年)
まさに「いじめ」な事例が報告されていますが、まさかSDGsとかパーパス経営やらを謳っている大企業が、裏でこんなことやってないよねー(棒読み
金型問題に対する対応策
受託企業にとって、上記で挙げられたような金型問題は、現状の売上や将来の受託可能性に直結する死活問題です。
では、こういった金型問題に対しては、どうのように対応できるのでしょうか。
以下では、特に、金型製造の受託企業に焦点を当てて考えてみます。
金型設計図面・関連データ・技術情報
●知的財産権
金型製造受託企業で発生し得る金型問題は、上記の事例12, 15のように、金型設計図面・関連データ・技術情報の流出です。
金型設計図面・関連データ・技術情報を、知財の権利で守れるでしょうか。主だったものについて考えてみます。
【著作権】
金型設計図面の表現に創作性が認められる場合、著作物として著作権による保護が認められる可能性もあります。
ただし、図面に表された表現そのものが保護されるに留まり、アイデアが保護されるわけではありません。
なので、技術的アイデアは同じでも表現が異なる図面は、保護範囲から外れてしまう可能性があります。うーん。
【特許権】
技術的アイデアを保護する知的財産権の筆頭は、特許です。
じゃあ特許権を取得すればいいじゃんと思いきや、特許権を得るまでの手順に、重大な問題があります。
それは、特許出願の書類(図面を含む)が全世界に公開されてしまうことです。書類は、当業者が発明を実施できる程度に書かなきゃいけなく、ノウハウが含まれてしまう可能性があります。そうすると、ノウハウが全世界に筒抜けになってしまうことになるのです。
ですので、特許権で保護することは現実的ではないケースが多いと思います。
【意匠権】
意匠権は、あえて大雑把に言えば、モノのカタチを保護する権利ですので、金型の形状も保護可能です(ただし外部から見える形状だけ)。
ですが、特許と同様に、形状が描かれた図面が全世界に公開になるので、これも避けたいケースが多いと思います。
【営業秘密】
金型設計図面・関連データ・技術情報をノウハウとして秘密にしておきたい!という要望に一番適うのが「営業秘密」として保護することです。
「営業秘密」の持ち出し行為等は、「不正競争防止法」という法律違反となり、個人であれば10年以下の拘禁刑若しくは2,000万円以下の罰金、法人であれば5億円以下の罰金が科せられ、非常に重い犯罪となります。
おお、これは…!
と喜ぶのは早計で、「営業秘密」として保護されるためには色々な要件を備える必要があり、その一つの「秘密管理性」が認められるような体制を整える、というハードルを越えなければなりません。これがちゃんとできてる中小企業さん、殆ど聞いたことない…(過去に1社だけあってえらく感動しましたが、過去に痛い目に遭ったから、とのことでした)。
このブログを読んでいたら、明日から早速「秘密管理性」が認められるような体制づくりに励んでください!
⇒経産省HP「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」
●現実的対応・将来的対応
なんか知的財産権はちょっと頼りにならんのでは…という印象でしょうか。
では、今より10年以上前の2014年1月10日の記事ですが「金型しんぶんONLINE」で、金型図面・加工データの保護の方法について述べられていますので、簡単にご紹介いたします。
現実的対応と将来的対応の2つが提示されています。
【現実的対応】
金型設計図面を顧客に提出する際は、交差をぼやかす等正確に記載しない、ノウハウや材料等の発注先を記載しない、といった対応で、重要部分は自社で管理する。
→要は、顧客の要望に応えるふりして、のらりくらりと重要部分を明かすことを回避する、ってことですね!
【将来的対応】
(1) 自社でオンリーワンの技術やノウハウを持つこと。
→「営業秘密」として保護したいですね!
できれば顧客に開示することを避けたいですが、そうも言ってられない場合でも、ノウハウ全てを開示することはせず、また、最低限、秘密保持契約は締結しておきたいです。
泣き寝入りするくらいなら、自己防衛。こういった権利意識を持つことが非常に大切です!
(2) あるいは、顧客と製品を共同開発し、共同ライセンスにすること。
→つまり、こちらが開示するなら顧客にも開示させて共同開発し、特許権を共同で持つことです。こうすることで、顧客が他の金型製造企業に特許をライセンスする際には、貴社の同意が必要になりますので(特許法73条3項)、事実上、他の金型製造企業に特許をライセンスすることを防止できます。
(※ただし、権利を共有にした場合のデメリットとして、お互いに自社の支配・管理下の子会社等には自由に製造させることが可能になってしまうので(特許法73条2項)、契約で「製造は我々のみが行う」ことを取り決めておくことを忘れずに!)
これらの対応は2014年当時ですでに金型メーカーの中でも増えている、とされています。
金型問題は、ときに死活問題です。
大企業の文化に忖度することなく、自己防衛としてできる策はすべきだと思います!
金型問題のご相談も承ります。もし弁理士ではお受けできないご相談でも適切な専門家にお繋ぎいたします。こちらからお問合せください。
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