【お役立ち知財TIPs】”規格品”についての誤解

【お役立ち知財TIPs】
 このコーナーでは、日常の知財業務等の中で「中小企業様に改めてお伝えした方がいいのでは」と感じたことを、わかりやすくご説明していきます。

ときどき「規格品には知的財産権がないので、誰からの許可も得ないで実施/使用できるのでは」と言われることがあります。

んー 半分合ってて半分合ってないような。

知財的には、「合ってない」と考える点を2つ挙げることができます。
・「規格品」であっても知的財産権が存在することがある。
・ご質問者様が想定する「規格品」は、我々が想定する「規格品」よりも、おそらくだいぶ広い概念である。

では、改めて、知財の世界で「規格品」がどう扱われるのか、解説していきたいと思いますyo!

知的財産的観点から見た「規格品」とは

知財で「規格品」と関係する事項を下記に挙げていきます。

特許

 ある標準規格の実施に必要不可欠な特許がある場合、これを「標準必須特許」と呼びます。例えば、モバイル通信技術やWi-Fi技術は、数百の「標準必須特許」で支えられています。
  
 特許がある場合、その標準規格を実施するためには、特許権者からの許諾(ライセンス)を必要とするのが基本です。なので「誰からも許諾を得ないで」実施すると特許権侵害となる可能性があります。これが冒頭の「合ってない」という所以です。

 ですが、ライセンスが高額だったり、1つの製品で複数の標準規格を実施せざるを得ない等で、標準規格の実施が困難になる等の問題があります。
ここで、標準規格には、いわゆるデファクト標準や標準化機関が協議で定めた規格がありますが、後者の場合、前記の問題を避けるため、標準化機関が、特許権者に対し、FRAND宣言(公正(Fair)、妥当(Rational)かつ無差別的(Non-Discriminatory)な条件(FRAND条件)でライセンスすることを約束させること)を要求することもあります とはいえ、特許権者からの許諾を得なければならないことには変わりありませんし、具体的な交渉や交渉結果については当事者間に委ねられるので、交渉が上手くいかないと訴訟に発展することもあり得ます。

意匠

 意匠法では「物品の機能を確保するために不可欠な形状若しくは建築物の用途にとって不可欠な形状のみからなる意匠又は画像の用途にとって不可欠な表示のみからなる意匠」は、意匠登録を受けられないことになっています(意匠法5条3号)。

 例えば、以下のようなものは、意匠登録を受けられません。
 (1)物品の機能を確保するため又は建築物の用途により必然的に定まる形状のみからなる意匠
   例:パラボラアンテナの内面側部分のみ、「ガスタンク」の球形状の本体部分のみ
 (2)物品の互換性確保等のため又は建築物の用途等に照らして標準化された規格により定まる形状(準必然的形状)からなる意匠
   例:JISやISO等の公的な標準化機関により策定された標準規格、デファクトスタンダード

 「のみ」というのがポイントで、該当するケースがあまりなさそうだ、ということがわかっていただけますでしょうか。おそらく、冒頭でご質問者様が想定されていた「規格品」の範囲より、ぐっと狭いと想像します。
 こういったもの以外で、意匠登録受けている製品(又はその部分)には意匠権がありますので、意匠権者の許諾なく製造販売等すると、意匠権侵害となります。当然ですが…。

商標

 商標法にも意匠法と似たような規定があり「商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な
立体的形状」は商標登録を受けられないこととなっています(4条1項18号)。

 これに該当するか否かの判断基準は以下のとおり。
 1.その機能を確保できる代替的な形状がほかに存在するか否か。
 2.商品又は商品の包装の形状を当該代替的な立体的形状とした場合でも、同程度(若しくはそれ以下)の費用で生産できるものであるか否か。
 
 代替的な形状がほかに存在し、同程度の費用で生産できれば、「不可欠な立体形状」には該当しないことになります。これも「不可欠な立体形状」に該当するケースはあまりなさそうですねー。

不正競争防止法

 不正競争防止法には、国内で販売開始されてから3年以内の商品の形態をまんま模倣することを禁止する規定がありますが(2条1項3号、登録されていない形態も対象です)、こちらでも「商品の機能を確保するために不可欠な形態」は保護対象から除かれます。
 保護対象から除かれる形態には、デファクト標準として採用されている形態、又は、その形態を採用しないと商品として成立しない形態、が該当します。例えば、コンセントのプラグ、換気口用のフィルター、ピアス孔用の保護具等が挙げられます。

 こちらも該当するケースはあまりなさそうだというイメージを掴んでいただければ!


「規格品だから」という言い逃れができる場合は意外に?少ない

上記のとおり、「標準規格」であっても、その技術について特許権が取得されている場合、その技術を実施をするためには、特許権者からライセンスを得ないと、特許権侵害となるのが基本です。

また、意匠法・商標法・不正競争防止法の下で「規格品」に該当して保護対象から除外されるケースは、かなり限られていそうだ、というイメージを掴んでいただけたでしょうか。

つまり、ざっくりしたイメージで「これは良くみる形状だから規格品」とか、「規格品だから許可なく使っていい」などと早計に判断せず、ちゃんと調べた方がよさそう、ってことですねー。


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